医療機関・クリニックの顧問弁護士をしていて、最も多い相談が「労務トラブル」です。
具体的には、解雇、残業代、パワハラ・セクハラなどのハラスメントなどのトラブルが多いです。

特に、その中でも、重大なミスが多かったり、患者からのクレームが多数寄せられるといった問題のあるスタッフへの対応に頭を悩ませているクリニックは想像以上に多いです。

SNSや口コミサイトが普及した現状では、良くも悪くもクリニックの評判はあっという間に広がります。クリニック全体の信頼性確保という観点からも、対応が急務であることが多いです。

そのため、クリニックとして「問題解決のために懲戒解雇の手段をとりたい」と考えるのも理解できます。

しかし、懲戒解雇にはかなりのリスクが伴います。解雇を告げられた当該スタッフが弁護士や労働組合に相談し、交渉が長期化するというケースも近年多くなっています。最もリスクがあるのは、裁判になってしまうことです。

懲戒解雇

すなわち、当該スタッフが「解雇無効」を求めてクリニックあてに民事訴訟を提起してくるというケースです。

残念ながら裁判所は、解雇を有効と判断することは極めてまれです。裁判で「解雇が無効」と判断されてしまうと、全く勤務していない当該スタッフに対し、裁判中の給与を支払う義務が生じ、結果として多大な損害が生じてしまいます(裁判が1年以上にわたった場合、その分の給与を支払う必要が生じる可能性があります。)。

具体的には、月給30万円のスタッフと裁判になり、2年後に裁判に負けてしまったとします。

その場合、月給30万円×2年(24カ月)の720万円を支払わなければ行けなくなってしまいます。スタッフが勤務していなかったにもかかわらずです。

そればかりか、裁判の判決では、職場に復帰させるという義務まで生じます。診療とは全く関係のない事象でクリニック側のリソースがとられてしまうことは大きなデメリットです。

このような事態を防ぐためには、問題スタッフに粘り強く改善を促し、場合によっては退職勧奨を行うという長期的なプランニングが必要になります。

顧問弁護士のメリットは、問題スタッフに対する指導や面談の方法をアドバイスしつつ、必要に応じて弁護士が面談を行うという「後方支援から直接交渉までの一連のサポート」ができる点にあると考えています(クリニックを代理して、問題スタッフと直接面談できるのは法律上弁護士のみという点も大きな利点だと思います。)。

メンタル不調

問題スタッフへの対応に加え、最近はメンタル不調を訴えるスタッフへの対応も増えています。

メンタル不調の原因はどこにあるのか、業務に与える影響はどの程度か、当該スタッフに対してクリニックとしてどのような対応をとるべきか、など検討すべき点は多岐に渡ります。

メンタル不調のスタッフへの対応を怠ると、「クリニックに安全配慮義務違反がある」などとして、損害賠償を請求されるリスクさえあり、慎重な対応が必要です。また、休職命令等を含めた対応が必要になることもあり、就業規則の整備など事前の対策も極めて重要です。

顧問弁護士としては、問題スタッフの対応と同様、事前の対策から発生直後の初動、メンタル不調者への面談など、一貫した対応をおこなっています。


労務トラブルは、診療に関係のない部分ではあるものの、組織を率いる上で不可避的に生じてしまう問題でもあります。顧問弁護士を利用することで、労務トラブルを未然に防ぎ、仮に発生した場合でも即応し、問題を最小限に抑える体制を構築できます。

まとめ

  • 医療機関・クリニックでは労務トラブルが多いです。
  • 多い労務トラブルには解雇、残業代、ハラスメントなどがあります。
  • スタッフを安易に解雇することは厳禁です。解雇前には弁護士への相談が必須です。